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「誰のことが、好き?」
美馬さんは、時々意地悪だ。
いつもは紳士的で優しくて……でも、時々、私を追い込むように意地悪になる。
いまどんな表情で、話しているんだろう。
気持ちを伝えるなら、会って言った方が良かったなって、今になって思う。
「美馬さんのことが…。」
「僕?」
「美馬さんのことが、好き…です。」
細かく脈打つ鼓動は、乱れることなく速度を保つ。
自分がいるこの部屋で、唯一聞こえる音だ。
「僕も、明奈さんのことが好きだ。」
嬉しい返事を聞いたから、何も言葉にできなくて。
その代わりに、じわりと視界を滲ませる温かさが頬を伝う。
「好きだよ。今すぐに抱きしめたい。」
「美馬さん…。」
思いがけない情熱的な言葉に、身体のどこからか火が点いたように火照っていくのを感じる。
「…やっぱり会いたいって言ったら、ダメかな。」
萎んでいたその気持ちが、ふぅっと息を吹き込まれた風船みたいに大きくなって、ふわふわと彷徨うみたいだ。
「会いたいけど…。」
「けど?」
「もう遅いし、美馬さん疲れてるし…。」
「僕が会いたいんだよ。」
会いたいけど、好きな人を気遣う気持ちと、少しでも美馬さんに釣り合う女性になりたいって思う気持ちが混ざって、即答できない。
「私も、会いたいです。でも…。」
「家の前にもう少しで着くから。会って、抱きしめさせて。」
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