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自動ドアが開いて、外の冷えた空気に触れた。
「こんばんは。」
先に口を開いたのは、美馬さん。
「こんばんは……あのっ、ごめんなさい。遅い時間に…。」
どうしても、悪いことをしてしまったという気持ちが拭えなくて、改めて謝る私の手を、そっと美馬さんの手が包んだ。
「どうして謝るの?もう大人なんだから、会いたくなったら、会えばいいじゃない。」
「そう、だけど…。」
「僕が無理な時は、そう言うから。謝ったりすることなんてないんだよ。」
言葉の区切り1つ1つで、私の手の甲で美馬さんの指先が柔らかなリズムを打つ。
「うん…。」
時間が、明日に近付いていく。
そして、それよりも早く、私の緊張が強くなって。
繋いでいる手すら見ることができないほど、自分の居場所を探す。
お互いに気持ちをぶつけあっていた数分前が通り過ぎて、いま流れている時間はとても穏やかだ。
すぅーっと、美馬さんが呼吸する音が聞こえた。
それにつられて、私が視線を上げると、美馬さんを目の前にしてからずっと見ることができずにいた、綺麗なグリーンの瞳がそこにあって。
そしてその瞳は、私だけを映している。
初めて会った、あの時みたい。
私は自然とその瞳に吸い込まれるように、視線を逸らせなくなった。
「明奈さん、驚かないでね。」
繋がれた手を引かれて、視界が後ろに流れて。
逸らせなかったはずのグリーンから、強制的に視線が剥がれて。
包まれている身体が、想っていたよりもずっと冷えていたことを、美馬さんの温もりが教えてくれた。
「…寒い?」
羽織るだけにしていたトレンチコートを開いた美馬さんが、私をすっぽりと包みこんだ。
近くなった体温は、とても穏やかで優しい。
「あったかいね、ここ。」
私は、コートの中の空間を独り占めしていたくて、自然と声が甘くなった。
行き場を失った私の両手を、そっとそっと、スーツの背に回す。
手の甲を滑るライナーの感触と、手のひらから伝わる感触が、好きの気持ちを強くさせる。
「明奈さん。」
真上から降る、美馬さんの声。
「…ん?」
見上げると、私を見下ろす瞳がとても綺麗で、想いが今にも零れそう。
ずっとこうしていたい。
重なった唇までも、彼の体温に溶けていった。
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