4379人が本棚に入れています
本棚に追加
「初めて会ったときから好きだった。食べてしまいたいほど、君が好き、ねぇ……。」
紫煙の向こうに、皐月がいる。
「よくそんなことを言えるもんだよねぇ。」
ビール片手に煙草を燻らせて、今日は惚気に付き合ってくれると言っていたのに、浮かない顔をしている。
「もう1杯飲む?」
「そりゃ飲むけど。」
「けど、何?」
「明奈のどこが気に入ったのかと…。」
とても不思議そうな表情をして、私が差し出したメニューを受け取った。
「失礼なっ!これでも一応女の子なんだから、気に入られる資格はあるんだぞー。」
ほろ酔いになってきている私は、皐月よりもピッチが上がっている。
こんなに美味しいお酒は久しぶりだ。
たまにはいいかと思って、付き合ってもらうのは勿論皐月しか浮かばなくて。
「超絶美人ってわけでもないし、スタイルが最高ってことでもないし…。」
「だから、中身。」
「中身って、性格とか思考ってこと?」
「そーそー。」
自画自賛している私の性格も、特別いいわけでもないんだけど。
「それは、ないでしょ。」
店員さんを呼ぶボタンを押して、メニューを畳んだ皐月が一刀両断する。
「初めて会った時から好きだった、んだから。性格なんて分かりっこない。」
ふぅーっと、遠くへ煙を追いやって、海老マヨをパクりと食べた皐月を私は睨んだ。
せっかく幸せ気分なのに。
「そのあと、何回か会ってたもん。」
「片手が余る回数しか会ってないでしょ。」
指をヒラヒラさせる皐月。
「明奈はね、大人のくせに経験足りないっていうかさ。経験が生きてないというか。私も人のことは言えないけど、他人の恋愛ほどよーく見えるのは、明奈だって同じでしょ?」
私はゆらりとする脳で、捲し立てられたセリフを理解して、こくりと頷いた。
「一目惚れって言いたいんじゃないの?美馬さん。」
最初のコメントを投稿しよう!