こんばんは、妖怪

4/8
前へ
/360ページ
次へ
「確かに気配がしたはずなんだけどなあ。」 本間は首を傾げ、呟く。 時刻は午前1時。 都会ならいざ知らず、ここはそう街中でもないため、人影は見当たらない。 彼は数分前から、ここで何かを待っている。 「おっかしいな~。ボクは見習いだけど、妖怪のオーラを見間違うほど間抜けじゃないのに。」 手に持った金属製の杖を、軽く振り回す。 幾度となく血を被ってきた杖。 「もしかして、公園の中じゃないのかも。」 本間はそこを立ち去ろうとした。 しかし、闇の中から現れた一人の人物がそれを阻んだ。 「本間くん。妖怪はここにいる。間違いない、かもしれない。」 「うわっ、なんだ野木さんか。」 野木と呼ばれたおかっぱの少女は眼鏡のずれを少し直した。 厚いレンズが眼光を遮る。 「本間くんは少しドジだから、気をつけないと駄目だよ。多分。」 「分かったよ。意識しておく。」 断定を避ける野木の表情は、常にどこか不安げである。 常に。何時でも。例えば妖怪を殺す時だって。 「さて、野木さんが来てくれたなら、どんな妖怪に遭遇しても怖くないね。」 「わたしはそんなに頼もしくないよ。きっと。」 「早く出てこないかな~。」 しばらく何の音も立たなかった。 深い闇が、あらゆる音を吸い込んでしまったかのようで。 しかし、やがて沈黙は破られた。 「出たぞ!」 公園の砂場から、異形の者がはい出てきた。 人を闇に落とす物の怪、餓鬼。 痩せた体に膨れた腹。薄汚れた布を纏った、位の低い鬼。 「こんなものか。」 本間の声には退屈さが滲み出ている。 「公園だから、昼は人が多いはずだよ。だからそんなに強い妖怪は出ないんだよね。想像だけど。」 「まあ、あまり強いのを相手にすると、先輩に怒られるからね。ちょうどいいのかも。」 二人は、各々の武器を構えた。 殺意ではない殺意。 「さくっと退治しようか。」 「そうする……。」 二人は餓鬼との距離を縮めていった。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加