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「確かに気配がしたはずなんだけどなあ。」
本間は首を傾げ、呟く。
時刻は午前1時。
都会ならいざ知らず、ここはそう街中でもないため、人影は見当たらない。
彼は数分前から、ここで何かを待っている。
「おっかしいな~。ボクは見習いだけど、妖怪のオーラを見間違うほど間抜けじゃないのに。」
手に持った金属製の杖を、軽く振り回す。
幾度となく血を被ってきた杖。
「もしかして、公園の中じゃないのかも。」
本間はそこを立ち去ろうとした。
しかし、闇の中から現れた一人の人物がそれを阻んだ。
「本間くん。妖怪はここにいる。間違いない、かもしれない。」
「うわっ、なんだ野木さんか。」
野木と呼ばれたおかっぱの少女は眼鏡のずれを少し直した。
厚いレンズが眼光を遮る。
「本間くんは少しドジだから、気をつけないと駄目だよ。多分。」
「分かったよ。意識しておく。」
断定を避ける野木の表情は、常にどこか不安げである。
常に。何時でも。例えば妖怪を殺す時だって。
「さて、野木さんが来てくれたなら、どんな妖怪に遭遇しても怖くないね。」
「わたしはそんなに頼もしくないよ。きっと。」
「早く出てこないかな~。」
しばらく何の音も立たなかった。
深い闇が、あらゆる音を吸い込んでしまったかのようで。
しかし、やがて沈黙は破られた。
「出たぞ!」
公園の砂場から、異形の者がはい出てきた。
人を闇に落とす物の怪、餓鬼。
痩せた体に膨れた腹。薄汚れた布を纏った、位の低い鬼。
「こんなものか。」
本間の声には退屈さが滲み出ている。
「公園だから、昼は人が多いはずだよ。だからそんなに強い妖怪は出ないんだよね。想像だけど。」
「まあ、あまり強いのを相手にすると、先輩に怒られるからね。ちょうどいいのかも。」
二人は、各々の武器を構えた。
殺意ではない殺意。
「さくっと退治しようか。」
「そうする……。」
二人は餓鬼との距離を縮めていった。
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