プロローグは昼食の前で

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では何が『ファンタジーの一歩手前』なのか。 それは彼女の頭部にあって、静寂が支配する化学実験室ではどの実験器具よりも異彩を放っていた。 猫耳。 犬のように垂れているわけでも、狐のように広がっているわけでもなければ、人間の本来あるべき位置にもない。 彼女の赤茶けた髪の毛に馴染むようにして、違和感なくそびえ立っていた。 『過度な装飾品』だとしても、耳と頭髪の色が余りに馴染みすぎている上に、時折俺の視線に反応してピクリと動いている。 人間が本来持っている耳の位置は、ショートで少し癖のある髪の毛で覆われていて、その存在は確認できない。 恐らく、確認させたくないのが正直なところであるはずだろう。 ここで、耳をピクリと動かして目を丸くさせていた彼女が動いた。 なんと後ろ手に持っていたニットの帽子を被ったのだ。
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