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「紅 (あか) ! 里見高校、戌塚 孝乃 (イヌヅカ タカノ)!」
蒸せかえるような熱気の支配する里見市大武道場。その中央で構える主審が低く野太い声で俺の名前を呼ぶ。
その瞬間、俺の背後に控えていた仲間達がワァーっと歓声を張り上げ、静まり返っていた会場内のテンションを一気に最高潮へと盛り上げてくれた。
いよいよだ。いよいよ去年のーーいや、これまでの借りを返す時が来たのだ。
全国行きの切符をかけた男子剣道インターハイ予選決勝。
去年もここまでは辿り着いた。だけど、俺は負けてしまった。
今日と同じ様な空気の中、同じ様に部活の仲間や観客達に見守られーー
「こらぁっ! 何、ぼーっとしてんの考乃っ! さっさと中央に進みなさい!! 試合が進まないじゃないのよ!!」
そう、これも去年と同じく観客席から俺を応援に来てる幼馴染が野次ってきてーーって、うぉぉぉぉいっ!
「うるせー!! お前は黙ってろ巴(トモエ) !! 俺だって感慨深く物思いにふける時だって……」
俺は勢いよくその場から立ち上がり、観客席できーきーと野次を飛ばしてくる黒髪ポニテールの女の子に向かって竹刀を突きつけながら抗議する。
だが、しかし…………
「あだぁっ!?」
高速で飛来した鈍器の様な物体が俺の頭を直撃し、その訴えは虚しくも途中で遮られてしまった。
おい? 試合始まってねーのにダメージ喰らうって、これなんて罰ゲームだマジで。
「うるさい! 馬鹿ッ! 口答えすんなっ!! 男なら黙ってやられてきなさいっ!!」
流石、口も手もより早い事で有名な棚町さんちの巴ちゃん。
どうやら俺を野次った瞬間、手に握っていたペットボトル(中身がカチコチに冷凍されたている)も一緒に投擲していたらしい。
まったく、いつもながらの手際の良さに感動して、思わず殺意が沸いてくら。
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