プロローグ

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「ツキイイイアアアアアア!!」 「うおおおっ!! 危ねえっ!!」 鬼気迫る勢いで伸びてきた辰巳の突きを、俺は首を逸らしながら咄嗟に竹刀で弾き、これを凌ぐ。 やべぇ! このままじゃ辰巳に流れを完全に持ってかれちまう!! ここは一旦、鍔迫り合いに持っていって辰巳の足を止めるしかねぇ!! 「ツァメエエエエエッンッ!!」 俺は返す刀で辰巳の面を狙い、無理やりに打ち込んだ。 すると、思ったより俺の切返しが速かったせいか。 「くっーー」 面金の向こうで苦い表情を浮かべる辰巳。 あり得ない速さで間に入った竹刀で俺の一撃は防がれてしまったが、そこで辰巳の足がピタリと止まった。 ちっ! 入ればもうけもんだったんだけどな。 だが、しかし! 「コレはコレで狙い通りじゃあああっ!!」 俺は面打ちの勢いを殺さず、そのまま辰巳との距離を詰め、予定通り鍔迫り合いの形へ持っていく。 そして辰巳と激しくぶつかり合ったところで、俺は逃がさないように小刻みにステップを踏みながら、その距離を保った。 さて。ここまでは上手く持ってきたが、問題はどうやってこの均衡状態を切りか崩すかだ。 とりあえず辰巳は馬鹿みたいに強いけど、体は俺より一回りくらい小さい。 と言うか、一般男子のソレと比べてみてもチビで、実は巴の方が辰巳より逞しい体つきをしてるじゃね? と思ってしまうくらい華奢な体つきをしている。 それならば体格の差を利用し、力押しでいけるはずなのだが。 これまたビックリするくらい、すばしっこいだよなコイツ…… 一度でも完全にリズムに乗せちまうと、相手から一本を取るまで試合場を所狭しと駆け回り続けるし、そうなったらもう、とてもじゃないが手に負えん。 かと言って、こっちが距離をとって制空圏を築いても、涼しい顔しながらあっさりと自分の間合いに入ってくるし、マジでどうしたもんか…… 竹刀をカチカチと絡ませ柄をギシギシ軋ませながら次の一手について、俺が色々と頭を悩ませていると。 「ふふっ、今日はいつもに増してヤル気満々だねタカちゃん」 突然、やんわりとした瞳で俺を見上げ、何処となく嬉しそうな声で辰巳が話しかけてきやがった。 まったくもって試合中だというのにマイペースな奴だ。
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