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またしても、ほぼ同時に入ってしまった俺と辰巳の一擲。
大気が震えた様な錯覚に陥る中、俺は体の奥に突き刺さる様な痛みを感じていた。
流石に受け慣れているとは言え、やっぱ辰巳の剣は芯にくるものがある。
あんな華奢な腕の一体何処にそんな力があるのか一度聞きてみたいもんだぜ。
「………………クッ」
ズキズキと響く痛みに視界が歪む。
その先には、同じく俺の一撃を頭に受けた辰巳が、袈裟斬りに振り抜いた形で静かに固まっていた。
ったく、辰巳の野郎。
あんな寂しがり屋の彼女みたいな事を口にしておいて俺に動揺を誘うとは……本当に油断ならねー奴だーー
試合上の中心でピタリと動きを止めた俺達と呼応するかの様に、会場内の空気が静寂に支配される。
そして、その空気に気圧されるかのようーー斜め向かいに控えていた主審が、額からタラリと冷や汗を流し、片手を天に向かって勢いよく振り上げた。
「紅っ! 面ありっ!!」
「うおっしやああああああ!!」
そう名乗りを受けた俺は空になっていた右の掌で力強く拳を作り、抑えきれなかった歓喜の声を惜しむコトなく口から吐き出した。
誰も予想してなかったこの展開に、観客達の間でも割れんばかりの大歓声と拍手の嵐が巻き起こる。
先程まで、あれこれとやかましく口を挟んでいた巴も、ポカーンとアホみたいに口を開げたまま大人しくなってーーって、いやいやいやっ!
お前はこういう時にこそ率先して、はしゃげよ!! 盛り上がれよ!! 馬鹿みたいに揺らせよ!! 乳をっ!!
「いたたたっ……あ~~、完全に隙をついたつもりだったのにな~~」
ワンテンポ遅れてぼやきながら頭を痛そうにさする辰巳。
くっ、くっ、くっ。そうだろう、そうだろう。
実は焦りながらも胴を喰らう前に確かな手応えを感じてたからな。
「フハハハハハッ! 見たかタツ! これぞ肉を切らせて肉を断つってヤツだ! フハハハハハッ!!」
ダラリと垂らしていた竹刀をタツに向かって突き出しながら、勝ち誇る俺。
しかし、タツはそんな俺の態度にムカつく様子を見せるどころか、哀れむ様に半眼で俺を見据え、こう口にした。
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