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「(そういう訳じゃないんだがな…)」
雅は、しゃーないしゃーない、ここは我慢や。と言っている滋に視線を向けて僅かに苦笑を漏らした。
雅が、気にしているのは生徒会に向けて放たれるであろうけたたましいまでの声援ではなくその先に待ち構えている生徒会長挨拶である。
「…今から気が重い…(まさかあんな恥ずかしいことをさせられようとは…)」
雅は、項垂れるように俯きながら本日最大の溜息をついたのだった。
そして、雅の心労の甲斐なく始業式は定刻どおりに始められる。
『では、本年度生徒会役員のご紹介をいたします』
式は、開式の言葉から始まり一番短いであろう校長挨拶を終え、盛大な歓声という名の雄たけびから始まった理事長挨拶を切り抜け、この式のメインイベントとも言える今年度生徒会役員の紹介へと進んだ。
それと同時に会場の盛り上がりもピークに達する。
生徒たちの黄土色の歓声も地を揺るがさんばかりに上げられている。
「…相変わらず、どこから出しているのか分からないような声をしているな…」
雅は、一人会場を揺るがす歓声を聞きながらそう呟く。
というのも、ここは男子校なのだからまるで女の子が出すような黄色の高い声が聞こえるはずがないのだ。
しかし、会場のあちこちから聞こえるボーイソプラノの高い声。
それに混じるようにして体育会系の野太い声が木霊している。
はっきり言って聞いていて気持ちのいいものではない。
「ああ、チワワちゃんたちのたかーい声のことやろ??同じ男とは思えへんよなぁ…」
雅の呟きが聞こえたのか隣に座っていた滋から返事が返される。
「確かにな…だが、聞くに堪えないのが…」
『うおおおお!!!』
「ああ、あれなぁ…」
雅の言葉を遮った一際野太い雄たけびに滋は苦笑いを浮かべる。
今、紹介されているのは今回の役員の中で一番小さくてかわいい葵だった。
「…ハァ…」
雅は、そんな生徒会役員紹介に溜息を禁じえなかったのだった。
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