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取り次いでもらう間、前髪の揃った童女が廂の間へと通してくれた。
悠然と待つ頼爾と、どことなくそわそわする信爾の元に、どかどかと乱暴な足音が響いた。
「頼爾様!」
がらりと襖を開け放った瞬間に声を発したのは、少年だった。
健康的な小麦色の肌に好奇心旺盛な瞳が輝いている。
「しばらくぶりだな!また面白い話を聞かせてくれよ!…っと、そちらは?」
少年は一気に話すと、ようやく気づいたのか信爾へと視線を落とした。
「私の弟の信爾だ。こちらは紫苑だよ」
頼爾が丁寧に紹介すると、紫苑はニカッと笑って信爾へ手を差し出した。
「頼爾様の弟君かぁ。よろしくな!」
「あ…よろしく」
気圧されていた信爾がその頬を少し緩めて紫苑の手を握る。
「そういえば、主様に会いに来たんだよな?だったら中庭に出たらいいよ。舞を踊ってらっしゃるから」
無邪気な笑顔で中庭へと案内される。中庭と言ってもかなり広く、四季折々の花や木が植えられ、さらさらと水が流れる音もしていた。
途中、邸の壁にもたれていた蘇芳がこちらを見咎め紫苑を睨み付けた。
「なぜ連れてきた。主の舞が終わったら案内するつもりだったのに」
「他でもない頼爾様だ。邪険にするな」
蘇芳の噛みつきにびくともせず紫苑は笑った。
「頼爾様、あちらに」
少し拓けた芝にその人はいた。
輝かしい月の光を浴びながら、その月より美しい金色の髪をした青年が。
藤の花を思わせる袿は舞うたびに風を纏い、金糸銀糸の刺繍で描かれた胡蝶は本物の蝶のように優雅に舞っていた。
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