月に乞う者

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信爾が息を飲んで黙っていると、底抜けに明るい声が響いた。 「あー蘇芳!まったそんな物騒なモノ持ち歩いて」 この場に似つかわしくない爽やかな笑顔で紫苑が蘇芳に歩みよる。 「…お前には関係ない。下がれ」 未だ低い声で凄む蘇芳の耳許に紫苑が囁く。 「…俺のほうが先輩だろ?顔立ててくれよ。 それに、お前のそんな顔、主様は喜ばないよ?」 「え?」 蘇芳は紫苑の言葉にびくっと反応し、恐る恐る玻璃月を見遣った。 「蘇芳には笑顔が似合うよ」 玻璃月はにこりと妖艶な笑みを浮かべそれに応える。 「…っ」 蘇芳はしぶしぶ信爾の首から短刀を下ろした。そして素早く立ち去り、桜の木に飛び移り隠れてしまった。 その様子を可笑しそうに見る玻璃月に、頼爾が声を掛ける。 「玻璃月…わざと試しただろう。信爾がお前の名を言ってしまうと見越して…」 「おや。なんと人聞きの悪い…。私はただ、名を名乗っただけだよ」 「…しばらくは、お前の通り名『紫金童子(しこんどうじ)』と呼ばせる…いいな?」 「そうだねぇ。もっとお互いを知ったら、名前を呼びあうのも良いね…信爾?」 急に名を呼ばれ、信爾はびくりと身体を震わせた。 それほどに、威力のある声音だった。
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