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「…半数ほどが近々祝言を上げる予定だったと。それが髪を切られたために先伸ばしになったり断られたり…」
「それはまた。可哀想にね」
「……それだけですか?」
「それだけだね」
がっくりと落胆し、言葉もなく信爾は立ち上がった。
苦笑した頼爾の言葉がその背中を追う。
「…けれど必ず、増長するだろうよ。今に髪切り騒ぎじゃ済まなくなる…」
「それはどういう…」
訝しげに振り向く信爾に頼爾は困ったように片目を瞑っただけだった。
数日後、頼爾の言った通り都はただならぬ騒ぎになっていた。
髪を切られた受領の娘が今度は連れ去られ、助けようとした男の肩が噛み砕かれたという。
信爾は焦りの色をその顔に浮かべ離れへと向かった。
「兄上!!」
乱暴に襖を開けると頼爾は猫と戯れていた。
気だるい目付きの猫と目が合う。
あまりの世界の違いに信爾は拍子抜けした。
「…兄上…」
「なにやら血生臭くなったりようだね…攫われた娘は見つかったのかい?」
「!…いえ、まだ。そのことで父上に相談が来て…」
頼爾が事のあらましを知っていたことに驚きを隠せなかった。
「…父上はなんと?」
「…私を向かわせると仰いました」
「ほう」
頼爾は
低く嗤ったようだった
。
「…私が任されたというのに、兄上を頼るなど情けないことは承知しています…ですが」
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