迷える月

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「ねぇ…起きて、本当に気づいてないの?」 女の声で目が覚めた。いつの間にかうたた寝をしていたらしい。 目を開けると、以前頼爾の部屋で会った女子がいた。 今日は薄紅の袿を纏っている。黒髪に白い花簪が映えている。 「っ…!?」 ぼんやりとしていた頭がようやく覚め、信爾は後退った。 が、後頭部を襖にしたたかに打ち付けた。 「もう、鈍くさいわねぇ」 くすくす、と女は笑った。よく見れば花簪の花は、先ほど猫にあげたそれと同じだった。 「お前、その花…。あれ?猫は…?」 きょろきょろと辺りを見回した信爾に、女はぐいと詰め寄った。 柔らかな黒髪が一房、肩から流れ落ちる。 香ったのは、頼爾が好む香。 「まだ気づいてないの?私よ。その猫」 少し怒った口調でそう言われ、信爾は混乱した。 「えっ!?えぇ!?」 「私、頼爾様の式神なのよ」 そう言った彼女は誇らしげだった。 「名は、悠羅(ゆら)」 にこりと妖艶に笑む彼女に、信爾は呆然と口を開けていた。 「ねぇ、信爾」 「呼び捨て…」 「あなたも少し、陰陽師として一人前にならなきゃね?」 含みのある言葉でさらに近づく悠羅。信爾は後退る場所もなく困惑した。 「あの…悠、羅?」 桃色の艶やかな唇が目の前に迫る。信爾は思わず固く目を瞑った。
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