迷える月

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「命を…って、そんな私などは別に」 「おや、自覚なしですか。妖好みの鮮やかな気を持っていますよ?…開花すれば、妖が畏れる人物になる」 葭枇の物を映さない瞳が、ぎらりと紅く光る。 「よっぽど大事にされているようですね」 ふっ、と笑う葭枇の目はもう元の穏やかな目に戻っていた。 「…私は半妖ですし、人を喰らう趣味もありませんから大丈夫ですよ。変に手を出したら…あなたの兄上様が恐ろしいですからね、やめましょう」 そう言うと、葭枇はさっさと庵の中へ入っていく。 信爾が戸惑っていると、中から声がした。 「何やってるんですかー?私に聞きたいことがあったのでしょう?」 「あっ、はい!」 庵の中では囲炉裏の火がちろちろと燃え、暖かかった。 質素だけれど落ち着ける場所。そんな雰囲気があった。 「お茶でもどうぞ」 「ありがとうございます」 一口飲んだお茶は、苦くまろやかな甘味があった。 「…薬湯なんですよ、それ。気持ちを落ち着ける作用がある」 「へぇ…」 胃に温かい物が流れ込み、ほうっと安堵のため息が漏れる。 「…聞きたいことは、何でしょう?」 「いま、巷で起こる不可解な事件のことで…兄はいろいろわかっているようなのですが、私にはさっぱり…」 「ふむ…なるほど」 葭枇が穏やかな瞳で信爾を見た。 「あなたは兄上の役に立ちたいんですね」 はっきりとそう言われ、信爾は頷くしかなかった。 ―早く一人前になりたい、 早く、早く。 それは皆、兄の負担になりたくない。それだけだった。
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