迷える月

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「…兄と、同じ場所に立ちたいんです。まだまだ未熟な自分に無理だというのはわかっていますが…」 「兄上を思う健気な気持ち、わかりますよ。…素晴らしいことです」 そう言うと、葭枇はゆっくりと立ち上がり、古びた薬棚へと向かう。 「…使いこなせるかはあなた次第ですが」 引き出しの一つから、懐紙に包まれた何かを取り出した。 「妖が封じられた鏡です」 そっと懐紙を開くと、縁に菊の模様が描かれた小さな鏡が出てきた。 五角形の鏡は今はただ信爾の顔を映すだけだった。 「妖の力を使いこなすのも陰陽師の役目。あなたが一人前になれば、力を貸してくれるでしょう…兄上様が持つ、悠羅のように」 勝ち気な悠羅の顔が頭を掠めた。 悠羅は頼爾のことを尊敬していた。きっと頼爾も、悠羅を信じている。 …この鏡にいる妖も、そうなるだろうか…? 鏡を懐に仕舞い、葭枇の庵を後にした。 もう霧は晴れていた。 ―『答え』を探しに来たつもりが、さらに課題が増えた気がするな。 くすりと笑い、信爾は屋敷へと歩みを進めた。
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