迷える月

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屋敷に着いた信爾は、なぜか正座させられていた。 隣には悠羅。同じく正座だ。 「まったく…一人で勝手に何をやっているんだ」 珍しく凄みのある声で頼爾が言う。目は据わっている。 「よりによって葭枇のところへ…しかも悠羅!お前の入れ知恵らしいな?」 翡翠の目が鋭く悠羅を貫く。小さく縮こまった悠羅はびくっと肩を震わせた。 「あ、兄上…悠羅は悪くないんです」 「いいや、わかっていたはずだ…信爾が妖に狙われていることも、あの山が妖の巣窟だってことも」 「ごめんなさい…」 しゅんと頭を下げる悠羅に申し訳なく思う気持ちと同時に、えもいわれぬ怒りが込み上げてきた。 「…兄上!」 痺れた足を物ともせず、信爾は立ち上がった。 「ご心配は有難いですが、私も陰陽師の端くれ。たとえ妖に襲われようと、闘ってみせます!それに、自分の過ちは自分で責任を負います。 …悠羅は悪くありません」 一息にそう言って、頼爾の顔を見ず屋敷を出た。 冷たい秋風に当てられ、行く宛てもなく途方に暮れていると、 「…信爾さまっ」 小さな可愛らしい声がした。 「…!真火殿…」 藤と茜の袿を見にまとった真火が、穏やかな笑みを浮かべてそこにいた。
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