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『私の元婚約者に、一緒に会ってもらえませんか?』
そう言われ向かった先は西洞院近く、由緒ある屋敷の門前。
「…あの、真火さん」
「はい」
「その…なぜ私なんでしょう?」
今更な疑問を投げ掛けた。
不運にも事件に巻き込まれ、行く先を断たれた彼女。
酷い言葉で傷付いた、その相手になぜ会いに来たのだろう。
なぜ…自分なのだろう。
「なぜ…でしょう?」
真火もまた、首を傾げる信爾に合わせるように首を傾げた。
「…けじめ、でしょうか」
真火は高い門に向き直って言った。
「このままでは、私は先に進めない。…もしかしたら、婚約者の方もそうかもしれません」
だから、と言葉を続ける。
「自分のために、です。会ったことはありませんが、せっかくのご縁です。一言だけお礼を言いたくて」
「お礼…」
「文と香を…いただいたお礼と、新たな出会いへの…」
はにかんだ顔で俯く真火に、その意味を知った信爾は耳まで赤く染まってしまった。
「あは、信爾様…耳まで真っ赤です」
言う真火も白い頬を赤く染めていた。
「おや、あなたは…」
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