迷える月

11/12
前へ
/91ページ
次へ
長身の見目麗しい男がそこにはいた。 白い肌に切れ長の瞳。すべてが完璧に整った顔立ち。 「…!秋柾(ときまさ)様…」 真火の表情が固くなる。この秋柾という男が、元婚約者なのだろう。 信爾は真火より一歩後ろに下がった。 けれど不思議なことに秋柾の視線は信爾から離れなかった。 「?…あの」 「やはりそうだ。あなた、先日の歌合いにいらしてましたね?」 「え、はい」 「珍しい髪の色だったので覚えています。…それに美しい…」 「は?」 恍惚とした表情で見つめられ、信爾は怪訝な顔をした。 秋柾ははっと我に返り、真火を見た。 「ええと…そしてあなたが、真火さん」 「はい…」 「先日は私の父が失礼を致しました。婚約の件…実は、あなたばかりのせいではないのです」 秋柾が言いにくそうにため息を吐く。 真火はきょとんと首を傾げた。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加