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「情けないことはないよ、信爾。お前はもっと自分を誇るべきだ。お前の実直さや人懐こいところは素晴らしいよ。
父上も、お前だから頼んだのだろう」
淡々と、けれど温かい声音にささくれ立った心が鎮まるのを感じた。
「それに…父上は、お前が私に頼ることを見越していたと思うよ」
「それならばなぜ、最初から兄上に命じなかったのでしょう」
信爾の素直な問いに、頼爾は自嘲気味に呟く。
「私と父上は、そうなんだよ…」
その言葉の意味合いははっきりとは解らなかったが、一つ分かったことがある。
(…先程の嗤いは、自分にだったのか)
頼爾は妾の子だ。信爾には分からぬ苦労もたくさんしてきたのだろう。
だから信爾は頼爾を「兄上」と呼ぶ。離れていた時を埋めるように。例え絆が細くとも、もう二度と切れてしまわぬように…
ちりん、と小さな鈴の音がしてふと我にかえると頼爾の膝の上から猫が飛び降り庭へと軽やかに駆けて行った。
「さて、その受領の娘を探しに行こうか」
「見当がついているのですか?」
「大方ね。けれどお前の思っていることとは違うかもしれないよ」
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