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頼爾の言う意味も分からぬまま付いて行くと、屋敷から少し離れた竹林へ辿り着いた。
「…ここですか?」
「どうだろうね?そうかもしれないし違うかもしれない」
言いながら頼爾は躊躇うことなくがさがさと進む。
竹林は昼間の喧騒や暑さから逸脱した、別世界のようだった。
信爾はふとあの離れを思い出していた。
(あの場所も、世間から離れた空間だよな…)
まるで異世界に迷い込んだような。
品の良い香の匂いと頼爾の存在がそうさせているのかもしれない。
ぼんやり考えながらついて行くと竹林の奥に小さな神社が見えた。
随分昔から在るのだろう、元は鮮やかな朱色だったはずの鳥居の色はほとんど剥げている。
「ここは…?」
信爾の小さな声は頼爾の広い背中に消えていった。
頼爾は石の階段を上がり古い引き戸をゆっくりと開ける。
中に入ると真っ暗なはずのその場所には何本か蝋燭が灯っていた。
「……おい、いるのか?」
頼爾の低い問いかけに応えるように蝋燭の灯が揺らめく。
床は朽ちかけているのか軋む音が不気味に響く。
小さく、女の啜り泣く声がした。
思わず身構え腰刀に手を掛けた信爾を、頼爾は手で制止した。
「…出ておいで。私だ…」
「…頼爾、様…?」
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