湖面に映る月

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女の声がはっきりと頼爾の名を呼んだ。 「真火(まほ)…」 頼爾の艶めいた低音が名を返す。 「わあぁあん!!頼爾様あぁ!!」 途端女の声は泣きじゃくる声に変わり、黒い影が頼爾の胸へ抱きついた。 「…困った人だ。真火…」 「うっ…う…っ、あの人は…?あの人は来てはいないのですか…っ」 涙声で辺りを見回す女の顔が蝋燭の灯りに仄暗く照らされた。 信爾はハッと息を飲んだ。 きめ細かい白い肌、桜色の唇…そして、 自分に似た銀髪だった。 「…その、髪」 信爾が思わず呟くと、女にキッときつく睨まれた。取り成すように頼爾が間に入る。 「真火、こいつが私の愚弟の信爾だ。素直で良い奴だか素直過ぎてたまに失礼することがあるかもしれない。兄として詫びさせてもらうよ。 …信爾、受領のお嬢様の真火さんだ」 「受領の…って、行方知れずになったっていう?」 「そう。…でもあの人は来て下さらなかった」 目を臥せ、真火が話し始めた。 そうしてようやく、信爾は自分が睨まれた理由に気づく。
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