16人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ?。サメでもかかったのか?。」
砂浜に集まった人ごみに声をかけると、若い漁師の男は
「人魚、人魚だよ。本物が網にかかったんだ。」
興奮気味そう言って振り向いた。
「うわ!、ライカ!!。」
顔を見るなり叫んでしりもちをつく姿に、ただ立っていても驚かれるとは俺も名が売れたなと思うライカ。
「海賊が砂浜歩いてるたぁ、珍しいが重なる日だ。」
漁師たちのからそんな声がすると皆、どっと笑う。
悪名高き海賊の中でライカは決して港や漁村を襲ったりしない。
いつも緩い雰囲気をまとい、ふらりと立ち寄っては水や食料を対価以上の金や宝石で支払ってくれる珍しい海賊だと知っているから気安い言葉を口にする。
「本物か?。」
輪の中に入って地引網に絡まった塊を見下ろしたライカ。
「網にかかるなんてな。」
「死んでるんじゃないか?。」
「でもよ、人魚は死ねば泡になって消えちまうんだろ?。」
「じゃ、まだ生きてるのか?。」
釣竿の柄でつついてみるがピクリともしない塊。
網や海藻が重なり、白い指先と大きな透き通る尾びれしか見えないが確かに形は人魚だった。
その美しい姿と声で船乗りを惑わし、船を沈めて人をくらうという人魚に逞しい漁師たちも恐々と見守るばかり。
だがライカはその珍しい獲物の側に近付いて網に手をかけた。
「旦那、よしなよ。手を食いちぎられるぜ。」
「手だけで済めばいいが。」
「とどめを刺してから確かめようや。」
口々にやめろという漁師の言うことも聞かず、網を引き、海藻をかき分ける。
ややもしないうちに人魚の体は砂地の上に転がされた。
最初のコメントを投稿しよう!