序章

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たたみ6畳ほどの薄暗い室内。 部屋の4隅には対角線に1つづつ油行灯が明かりを灯している。 時刻は代々、夜4つ半くらいだろうか。 秋口に入り始めた外では、虫の声も大きく鳴り始めていた……… 部屋の中央には、向かい合う形で人影が2つ。行灯の光でハッキリとは見えないが、一人は年齢が30代~40代。さかやきも、産毛が生えてきており汚い印象である。もう一人は20代前半くらいであろう。小綺麗な黒の着流しは、男の色白の顔を浮き彫りにする役を担っているが、逆に身体全体を夜の闇に溶け込ませる様な深淵も携えていた。 部屋には二人しか人はおらず、どうやら目の前の膳から手酌で酒を呑んでいる。 力関係は年配の侍が上なのか、下卑な笑いを交えながら若侍に向かってあれこれ言っているようである。 ふいに。 厠に向かおうと立ち上がった年配の侍の背後で、銀色の光が一閃した。 立ち上がった年配の侍の、頭部が身体の線から左へ。 ずるずるずる。 どん。ごろん。 命令機関を無くした身体は、指先を小刻みに震わせながら勢い良く畳に倒れ込んだ。
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