太鼓屋

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日本橋にある太鼓屋は、江戸幕府はかの東照大権現様の時代から続く由緒ある料亭である。 父の誠太郎は、この太鼓屋の主人である吉蔵と碁打ち仲間であり、なにかにつけては太鼓屋を利用して碁を打つ機会を狙っているのである。 今日は、かねてより誠太郎が楽しみにしていたどじょうが揚がったとの事で、それを受け取りに正五郎が太鼓屋へ出向いたのであった。 正五郎(以下:正)「ごめんよ。吉蔵さんはいるかい?」 店に到着した正五郎は、勝手口から店の小間使いに声を掛けた。 「これは正五郎さん。旦那なら今、縁側で石を摘まんでますぜ。どじょうでっしたね。しばしお待ちを。………旦那~、正五郎さんが見えましたぜ」 小間使いが勝手口から声を掛けると、ズラリと連なる襖の奥からひょこっと、老獪な顔が覗いた。 吉蔵(以下:吉)「おぉ~。これはこれは。誠さんは元気ですかな?とりあえず、こっちに上がりんさい。」 老練な白いあご髭を伸ばした吉蔵が、正五郎を居間へ上がるように促した。 あまり長居したくなかった正五郎であったが、仕方なく吉蔵がいる居間へと上がり込んだ。
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