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「ハァ…ハァ……」
俺は森の中を走っていた。
〈逃げてちゃ勝てないぞ……〉
「わかってる」
頭の中に女性の声が聞こえてくる。
その声に俺は応えると手頃な大きさの岩に身を潜めた。
「………」
俺はそこから様子を伺う。
すると俺の来た方角から大きな猪…と言うべきなのだろうな『この世界』では……
とりあえず大きな猪が現れた。
ヘラクレスオオカブトのような形状の牙を二組持った大きな猪は俺を探そうと躍起になっている。
俺はその顔面が俺とは反対の方向を向いた瞬間に飛び出る。
走りながら左手につけたガントレット『天桜』をある方向へ向けた。
その時、音で俺の出現を察した猪は俺の方向を向く。
だが、俺の姿は一瞬にしてそこから消える。
俺はガントレットからアンカー付きワイヤーを猪の後ろにある木に射出してそれを巻き取ることで一瞬にして猪の背後に回ったのだ。
俺達知能のある存在にはすぐ理解されるが、ただの獣(この世界では魔物…だったかな)である猪は混乱する。
俺は混乱している隙に背後から右手に持っていた銃剣『夜桜』を振りかぶる。
そして再び音で振り返った猪の顔面をその黒と銀の刃で通り過ぎざまに切り裂いた。
「ふぅ~……」
俺は大きく息を吐くと緊張を解く。
〈お疲れ~!〉
俺の頭の中にさっきとは別の女性の声が響く。
〈この程度で手こずっているようじゃこの先大変だぞ…〉
すると先ほどの声も響いてきた。
その辛口な発言に俺も同感だった。
先ほど倒した魔物『スタッグボアー』のランクは下から二番目のDランク、俺はそんなのに手こずっていたんだから彼女の言い分もわかる。
〈も~サヤはいっつも厳しいんだから!〉
〈こっちへきてもう一週間だぞ、そろそろ慣れてもらわないといけないだろ?〉
「サヤさんの言うとおりだよ姉さん
さて…さっさと報告に行こうかな」
俺は口論する二人を宥めると街へ向けて走り出した。
(そう…『この世界』にきてもう一週間になるんだ……
いつまでも足手纏いなわけには行かない……)
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