1144人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ
「前田、帰ってよかったの?」
事務所を出てすぐ、私は前田に聞いた。
前田はいつも2次会まで参加している。
「キャバクラ行ったなんてばれたら、真理がうるさいもん。上手く帰れて助かったよ」
前田は亮をちらちら見ながら行った。
亮の機嫌はそんなに悪くないようだった。
「西園寺さん…」
前田が亮に話し掛けた時、亮の携帯がなった。
「すみません」
亮は前田に軽く頭を下げ、携帯に出た。
「もう帰ってますから。…結構です。…失礼します」
たぶん、竣工祝いに来ていた下請けの誰かだろう。
亮を接待する滅多にないチャンスに、誘いの電話だろう。
素っ気なく携帯をきった亮が、携帯をポケットにしまう前にまた携帯がなった。
「もう帰ってますから。…行きません。失礼します」
これを3回繰り返し、ついに亮は携帯の電源をきった。
「大丈夫?」
私は疲れきった顔の亮に聞いた。
「今日は現場も役所も動いてないから、大丈夫」
ため息まじりに亮が答えた。
「いや、携帯の電源の事じゃないんだけど…」
私は苦笑いした。
今頃、みんな亮を逃がした事を悔しがっているだろう。
「前田さん、さっき何か言いかけてましたよね?」
最初のコメントを投稿しよう!