働く女

11/14

1144人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ
「前田、帰ってよかったの?」 事務所を出てすぐ、私は前田に聞いた。 前田はいつも2次会まで参加している。 「キャバクラ行ったなんてばれたら、真理がうるさいもん。上手く帰れて助かったよ」 前田は亮をちらちら見ながら行った。 亮の機嫌はそんなに悪くないようだった。 「西園寺さん…」 前田が亮に話し掛けた時、亮の携帯がなった。 「すみません」 亮は前田に軽く頭を下げ、携帯に出た。 「もう帰ってますから。…結構です。…失礼します」 たぶん、竣工祝いに来ていた下請けの誰かだろう。 亮を接待する滅多にないチャンスに、誘いの電話だろう。 素っ気なく携帯をきった亮が、携帯をポケットにしまう前にまた携帯がなった。 「もう帰ってますから。…行きません。失礼します」 これを3回繰り返し、ついに亮は携帯の電源をきった。 「大丈夫?」 私は疲れきった顔の亮に聞いた。 「今日は現場も役所も動いてないから、大丈夫」 ため息まじりに亮が答えた。 「いや、携帯の電源の事じゃないんだけど…」 私は苦笑いした。 今頃、みんな亮を逃がした事を悔しがっているだろう。 「前田さん、さっき何か言いかけてましたよね?」
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1144人が本棚に入れています
本棚に追加