二兎追うもの

9/20

1144人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ
私も素直になればよかったと思いながら、お盆休みの話をした。 「そうなんだ」 明らかに残念そうな亮に少し笑った。 「でも仕事の量見る限り、来週の木曜日には休みになるはずだよ」 「え?打ち合わせ、もう行ったの?」 亮が聞いた。 「今日の19時から打ち合わせだった。窓口は関口さんだよ」 亮は大袈裟にため息をついた。 「関口とは仲良くしちゃ駄目だよ」 亮のやきもちと心配の混じった言い方に、私は素直に嬉しいと思った。 そして、そんな自分におかしくなった。 「大丈夫だよ」 私は笑って言った。 「そろそろ、事務所に戻るよ」 亮の言葉に私は慌てた。 「待って」 「どうした?」 亮が心配そうに言った。 「…私も、本当は寂しい」 私が素直に言うと、亮が微笑んだ気がした。 「できるだけ、早く帰るね」 「うん」 私はしばらく通話が終了した携帯を握りしめていた。 1人では広いベッドの真ん中で寝てやろうと横になったが、落ち着かなかった。 結局、いつもの場所で亮の枕を抱いて寝た。
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1144人が本棚に入れています
本棚に追加