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「今日は1人?珍しいね」
マスターがカウンターの隅に座った私に言った。
「たまには1人も大事だよ」
私はいつものカクテルと適当に食べ物を頼んで言った。
「悩み事?陽子ちゃんの場合、心配事かな」
カクテルを持ってきて、マスターが言った。
私が意味がわからない顔をすると、マスターが優しく笑った。
「陽子ちゃんの場合、大抵の事はもう答えが出てるから。悩むって言うより、心配って感じでしょ」
私はマスターの言葉に苦笑いをして、カクテルを飲み干した。
「私にだって、答えの出ない事があるよ」
マスターはお代わりを作りながら、また優しく笑った。
「じゃあ、仕事の悩みじゃないね」
私は俯いた。
自分が何を悩んでいるのかさえ、わかっていない。
わからないようにしていると言った方が正しい。
「人生なんて、陽子ちゃんのシステム手帳みたいにはいかないよ」
私のシステム手帳には、仕事の予定がぎっしり書いてある。
打ち合わせ、作業内容、納品、この繰り返しで、大抵予定通りに進む。
でもプライベートには納品の様なゴールはなく、どこに向かうべきかも見失いそうだ。
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