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「仕事やりにくくない?大丈夫?」
私は心配そうに聞いた。
「心配いらないよ。明らかに、俺の方が偉いから」
真顔で言う亮に、私は思わず笑ってしまった。
「本当は関口だけじゃなくて、みんなに言いたい気分だった」
亮はそう言うと、私の手を取って電車に乗った。
私達はマンションに近い居酒屋に行った。
店は混んでいて、カウンターに案内された。
「冷たいビール、美味しい」
思わず呟いた私を、亮が笑った。
「私、へらへらしてたでしょ?男とか女とか関係ない様な顔して仕事してるくせに、お酒の席ではあんな顔してて幻滅した?」
私は思い切って聞いてみた。
「幻滅してないよ」
亮は真面目な顔で言った。
「よかった」
私は安心して呟いた。
「お酒の席でだけ、陽子にあんな顔させるなんてずるいと思った。普段は女の顔なんて見たがらないのにな」
私は苦笑いした。
「でも、20代の頃はもっと酷かったから」
私はタバコに火をつけた。
亮は私の頭を優しく触った。
「でも、私がそうしたの」
建設業で働くうえで足枷でしかなかった女であるという事が、武器になるなら使ってやろうと思った。
いつまでも使える武器ではないなら、使えるうちに最大限使ってやろうと思った。
その武器の価値がなくなるまでに、1人前にならなくてはならないと思った。
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