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「陽子ちゃん、今日はビールは?」
いつものようにカウンターに座ると、おしぼりを出しながら大将が言った。
「まだ、仕事あるんですよ。お茶にします」
私が残念そうに言うと、大将も残念そうにお茶の用意を始めた。
おばさんはすっかり女将さんが板に付き、常連さんと楽しそうに話をしていた。
「陽子、部長なんだって?仕事の話だけじゃなかったんだろ?」
亮もこの後少し仕事をするらしく、お茶を飲みながら聞いた。
「今後の話を相談したんだよね」
私は部長とした話を亮に説明した。
「もうそこまで考えてたんだ?」
亮は少し驚いた顔をした。
「正直に言うと、子供が欲しいっていう曖昧な気持ちがはっきりした形になったのは…この方法を思いついたからなんだよね。ごめんね」
私は少し苦笑いして言った。
「なんで謝るの?」
「仕事辞めなきゃいけないなら、子供欲しいって言えなかったから。なんか不純だなって」
亮は微笑んで、私の頭を優しく触った。
「それって普通だよ。1番大事にしている物を手放してまで、未来の事は考えられないよ」
「ありがとう」
私は小さい声で言った。
「でも、部長に言う前に教えて欲しかったな」
亮が少し拗ねた様に言った。
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