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莱は、五郎左衛門の言葉に再び目を見開き驚きの表情を浮かべる。
「(犬千代!?…確か、前田又左衛門利家の幼名のはず…)」
莱は、どこか暗い顔をしながらも今の現状について考えをめぐらせる。
莱が物思いにふけっている間に五郎左衛門は犬千代と呼ばれた青年の元に駆け寄っていた。
「五郎左!無事だったか!!」
犬千代は、ひどく安心したように嬉しげな声を上げた。
「ああ、莱さまが……」
五郎左衛門は、事の次第を犬千代に話す。
その顔は驚きと心配の色に染まっている。
「…ハァ…(今、何を考えたところでどうしようもないか…とりあえずこれで…)」
莱は、深刻そうな顔で話している二人を見、どこか安心したように柔らかな微笑をこぼす。
しかし、次の瞬間、莱の表情が一瞬にして凍りついた。
莱が見たのは雑木林から五郎左衛門に狙いを定めていた弓兵。
「五郎左!!!」
莱は、鬼気迫る叫び声とともに五郎左衛門たちのもとに勢いよく駆け出した。
【ドッ!!】
「莱さまーー!!!」
鈍い音と鋭い痛み。
そして、今にも泣き出しそうな五郎左衛門と犬千代の表情を最後に莱の意識はぷつりと途切れた。
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