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「う゛…」
莱は、短いうめき声とともに見知らぬ部屋で目を覚ました。
そこは30畳もあろうかというほど大きな和室で障子の向こうからは暖かな日差しが部屋の中に差し込んでいる。
しかし、目を覚まして一番に飛び込んできたのは見知らぬ天井でも広い部屋でも暖かな日差しでもなく見知らぬ一人の少女の心配げな顔だった。
「莱さま!!お気づきになられたのですね!!」
少女は、瞳に溢れんばかりに涙をためて莱に話しかける。
「!!…君は…」
莱は、今一状況が把握しきれずに不思議そうに少女の顔を見つめる。
「!…五郎左衛門さまのおっしゃったとおりなのですね…」
少女は、莱の問いかけにひどく悲しげに表情を歪ませた。
「え?…」
少女の言葉に莱は、益々訳が分からず不思議そうな声を上げる。
「私は絹です!覚えておられませぬか!?」
少女は、今にも泣き出してしまいそうなほど悲痛な声を上げながら莱に詰め寄る。
「…(そう言われても…)」
莱は、絹の泣き出してしまいそうな表情を前に困ったように眉を寄せることしかできなかった。
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