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「ああ、なんとお痛わしいことでしょう…」
絹と名乗った少女はそう言って悲痛な表情でさめざめと泣き始めた。
「…な、泣くな!絹!!」
莱は、その場の空気に耐えられず思わずそう口を開いていた。
まるで滑るようにするりと口をついて出てきた少女の名に莱は目さ見開いた。
「!莱さま…私のことを覚えていらっしゃるのですか!?」
絹は、莱の言葉に僅かに表情が明るくなり希望で煌めく眼差しを向ける。
「…それは…(覚えているも何も初対面のはずなのに…なのに、なんでこうも胸がざわつくのか…)」
莱は、表情暗く言葉につまる。
確かに自分の記憶の中に絹はいない。
しかし、心が叫んでいる絹が悲しんでいる、泣くなと…。
「…良いのです…ご無理を為さらないでくださいませ…絹はいつまでも莱さまをお慕い致しております」
絹は、儚い微笑みを浮かべながらそう言って一筋の涙を流した。
「!…(困った…一体何がどうなってるんだ?…)」
莱は、絹の涙に胸を締め付けられながらも今の状況にひたすら困惑していた。
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