如月莱という男

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「莱さま。到着いたしました…」 男は、そう言って車のドアを開ける。 「…確か、白莢(シラサヤ)がここにあるとか?」 莱は、美術館を見上げながらそう呟いた。 白莢とは如月家に伝わる宝刀で二代前の当主の代に盗まれた品である。 「はい。そして、彼の脇差し、紅蓮も共にあると…」 「紅蓮も?随分と因果な巡り合わせだな…数百年もの間巡り会うことのなかった二つの刀がこんなところで会い見えていたなんて…」 紅蓮とは、白莢の対を成す脇差しのことでその存在は数百年も昔から失われていた。 話によると如月の家に仕えていた一人の忠臣に信頼の証しとして授けたさいその後家に賊が押し入り、紅蓮を紛失させたとのことだった。 「皆は、莱さまのために戻って来たのだとお噂しております…」 「まさか…たまたま俺の代になったにすぎないさ…」 「莱さまがそう仰るならそう言うことにしておきましょう」 男は、美術館への階段を登りながら優しく微笑んだ。
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