如月莱という男

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「…案外、安く済んだな…」 莱は、二振りの刀をその手に美術館前の階段を下りる。 「そうでございますね…如月家の宝刀をたった数億で買い戻せるとは…」 「そうだな。まぁ、いいさ…坂木、車を…アレ?」 莱は、車の止まっているはずの階段下を見てそう声を上げた。 というのも、本来なら止まっているはずのものがその場になければその行動も当たり前のことである。 「おかしいですね…申し訳ありませんが、莱さま。暫くこの場にてお待ちいただけますでしょうか?」 「まぁ、仕方ないね…俺はここにいるからいいよ…」 「では、行って参ります…」 坂木は、そう言って莱に頭を下げると車を捜して走り出した。 「…フゥ…にしても、運転手のいない車がどうやって消えるんだ?…レッカーでもされたかな??」 莱は、遠くなって行く坂木の背を見つめてそう呟いた。 そして、ふと手に持っていた白莢と紅蓮に視線を向ける。 「(そう言えば、坂木がこういった物を俺に持たせたままにするのも珍しいな…いつもなら俺の荷物を持って車を捜しに行くのに…)」 莱は、心の中でそう呟いて思わず彼にしては珍しいミスをしたものだと苦笑を漏らした。 そして日本に帰ったら少し休暇でもやろうかとガラにもなくそんな事を考えていた。 そんなことを暢気に考えていた莱に直実に時は近づいて来ていた。 しかし、家宝の宝剣を取り戻しその余韻に浸っていた莱にはその時がすぐ目の前に近づいていることにさえも気付かなかった。 いや、もしかするとその全てが神の悪戯だったのかもしれない。 【キキィィー!!ドン!!!】 「莱さまー!!!!!」 その場に響いた高らかなブレーキ音と坂木の叫び声、そして、道行く人々の阿鼻叫喚を最後に莱の意識はブラックアウトした。 それは、日常という名の平和が壊される破壊音。 そして、新たな日常の始まる開始ベルの代わり… †END†
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