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部活の終わりを告げるホイッスルが鳴り、
ネットやボールを片付ける部員たちを横目に、亮輔はベンチに座って休んでいる男に声をかけた。
「お疲れッス、先輩。」
「…ああ、田代か。」
そう言ってスポーツタオルから顔をあげたのは精悍で整った顔立ちの男―バレー部エースの三堂啓太。
男の亮輔から見ても思わず舌打ちしたくなるくらい、いい男だ。
亮輔は内心で黒い感情を押しこめながら、にっこりと笑顔を作った。
「おお、今日もたくさんの差し入れ。流石、モテる男は違いますねー。」
「茶化すな。」
「や、事実ですって。―で、いつもの変な差し入れ、来ました?」
途端、
ぴたり、と淡々と後片付けをしていた手が止まるのを亮輔は見逃さなかった。
「ああ、今日は…えーと鳥の竜田揚げ、か?」
視線を逸らしながらどもる相手を見、本当に舌打ちが出そうになる。
だが、なんとか人懐っこい笑顔は崩さずに大げさ気に声を上げて見せた。
「わあ、また予想のナナメ上をいくチョイス。こんな油くさいモン、練習後に食えませんよねー。俺、もらってきますよ。」
「いやでも、お前にも差し入れ、たくさん来てるじゃないか。」
「俺、竜田揚げ好きなんで。」
亮輔はそう言うと、三堂啓太に何か言われる前にさっさとそのタッパーを取り上げてしまう。
数十分前に見たばかりの、可愛いラッピングがされたそれを手にすると、『いいですよね、先輩?』と多少の凄みを利かせながら彼に尋ねた。
妙な気迫に圧倒されたのか、三堂もそれ以上は口をはさまず、『悪いな。』とだけ呟いた。
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