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「…しかし誰だろうな。こんな差し入れ毎回持ってくるやつは。」
「きっとその辺の空気読めない女ッスよー。先輩が気にすることないです。」
「いや、だが…一度も食べずにいるのは悪い気が…「試合前の大事な体です、変なモン食わすわけにいきませんよ。先輩は普通の差し入れでも食っててください。ほらこれ、お手製のスポドリっぽいですよ?」
「あ、ああ…」
詮索などさせるか、とばかりに遮り、別の話題を持ち出す亮輔。
そして着替えも会話もそこそこに、さっさと部室を後にした。
―本日の戦利品を手にして。
「ったく、ちーちゃんってば…鈍いんだから。」
―何が三堂くん、だ。
校庭の隅、自分だけの特等席である木の下に腰を下ろし、亮輔はタッパーのふたを開けてぼやく。
千尋に片想いをしてもう六年。
ようやく同じ学校に入れたのに、相変わらず薄情な幼馴染みとの距離は変わらない。
…しかもいつの間にか好きな男までできやがって。
バレーができる奴が好きなのか、と、せっかく奴と同じバレー部に入って活躍しても、全く眼中にないのだから泣けてくる。
「それに、この差し入れ…」
言いながらジロリ、と中身を見ると美味しそうな竜田揚げがみっちりと詰まっていた。
見かけは無骨で女子らしさのかけらもないが、千尋の作る料理はどれも絶品だ。
亮輔は――亮輔だけは昔からそれを知っている。
それなのに。
ふざんけんじゃねぇぞ、と亮輔は言いたい。
千尋の目論見は半分当たりだ。
三堂啓太は確かに毎回不気味な差し入れを持ってくる女を気にしているし、
内心、一度は食べてみたいと思っているに違いない。
でも、
「…誰が食わせるか、ボケ。」
――お前はレモンの蜂蜜漬けでも食ってりゃいいんだよ。
亮輔は差し入れを食べながら、彼女の名前の書いてあるメモを一撫でした。
END
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