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まずは【風山の友人】の元を訪れた。現在のその場所は都市開発の手がさほど及んでおらず剣先のような灰色の岩が丘陵地に突き出て乱立し、近くの高い山から冷たい強い風が吹きおろせば岩がそれを引き裂きヒューヒューと独特の悲しい音色をあげた。
岡の上の一際大きな岩の根元に台座のように張り出した場所があった。
岩肌に刻んであった精霊文字の窪みを手の平で撫でて皮の小袋から水晶を取り出し中央へ据えた。
「風山の友人達よ、あなたの友人が来た。」
料理本に書いてあった通りに辺りに響くような大声で叫ぶ。声はこだまし不思議な反響音を余韻に残した。風の音が強くなり、私を取り巻いてはローヴを膨らまし浮かした。風に囁きのようなものが混じり消えてゆく。一際強く風が吹き野草を巻き上げて小さな竜巻が出来たかと思うとそれが不意に解けるように掻き消えると硝子の様に透き通った美しい女性がフワリと私の前に浮いていた。薄絹を纏った美しい姿で空にフワリと浮きこちらを見詰めている。風の精霊シルフだ。
『久方ぶりに呼ばれたと思ったが・・・婦人ではないのか・・・・彼女の顔が見たい。・・・・新しい友よ、お前も歓迎しよう。風の恵を受けとるがいい・・・』
頭に直接響くような声で彼女はそういうと台座を指差した。そこには既に水晶は無くかわりに輝く碧の粉が置いてありその量は両手に山盛りといったところだ。
婦人の本には彼等の言葉はわからない為常に敬意と笑顔を絶やさない事と注意書きがあったが、魔術に通じる私は彼等の言葉を理解出来た。
『シルフよ、彼女は来ない。命を終えたのだ。だが彼女にもし子孫がいればいつかその面影に出会える事もあるだろう。』
人間界と精霊界では時の流れが違う。彼等は無限の命を持つが、婦人が亡くなり何百年も経った事を知らないのだ。精霊語で返した私をシルフは驚いたように見て、二、三度頷いた。
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