猛暑の一室にて

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 私は、目の前にあるカップアイスを訝しげに見つめていた。  カップ一杯に、こんもりと山を作り、溢れるように膨れていたというのに、見ると、既にその山肌は白濁と液状に為し、私の右手に持つ銀匙で一つ掬えば、それでもう終わりである。  外はかんかん照りになっていて、一歩外に出れば、それいまだといって暑苦しい熱気達がほくほく顔で私の体に抱きついてくるのは解りきっていることである。そうなってしまっては、せっかく涼ませた私心身が一息に沸騰して、あたりかまわず苛立ちを露わにしてしまう恐れがある。周囲の事も思慮にいれず、どなり散らしてしまうのは一人の大学生として、一般人として許しがたいことだと考える。そのため、私はこの六畳一間にしきられたマンションの一室に、喧騒に己の身を託したいという欲望を抑え、立て籠もることにしたのだ。  いわば、これは戦である。号と轟きながら猛然とその猛威を、奮わなくてもよいものを奮ってくるのである。安易にそれに対抗しようと、一歩城外へと足を踏み出せば、刹那、全身が奴らに貫かれてしまう。
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