猛暑の一室にて

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 私は、躊躇なく両の手をカップアイスに近づけた。それから、カップアイスの周囲を呼吸に合わせ撫でまわした。私は目を閉じた。すぐに目を開ける。わずかに残っていたカップアイスも既に溶けていっていたが、それでも、尚私は祈り続けた。  時折、わけもわからない言葉を声高高に発してみたりもした。元より、この祈りも本当にアイス神という、本当にいるのかもわからない方に、通じているのかもわかることではなかったので、手当たり次第に祈ってみることにした。手をかざして駄目ならば、カップアイスを全身で覆い隠してみたりした。覆い隠すことによって、いつの間にかアイスがこんもりと山を作っているはずと、試してみたが、これはまったく、無駄に体力を浪費することになった。  次に、「フエロ、フエロ」とどこぞの外国語らしく歌ったりもした。これもまた、特に決まった作法はなく、楽しげに歌えばそれで良いのでないかという楽観的なものであった。無論、成果は出ない。挙句は、「フエロ」を謳いながら、いつかテレビで見た舞踏会の踊りとやらを鼻につく汗水とよだれとを垂らしながら、相手はいないが、相手がいると仮想しながらカップアイスの周りで踊ってみたりもした。そうして、何だか無性に自分を殴りつけたくなった。こんな阿呆なことを究めようとしたために、私に残っていたわずかの体力も、アイスカップも雲散霧消となった。つくづく私は自分に苛立ちを感じた。阿呆阿呆。何がフエタだ。何がアイス神だ。この阿呆め。
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