猛暑の一室にて

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 そうやって、仰向けに倒れると、私は己に思いつく限りの罵詈雑言を吐きつけた。全身汗水漬くにし、細面でいて蝋のような顔から熱気をあげながらも、私のべろは働き続けた。と、視界の端で、何かが動いた。ひたひたと瞼を横切る汗水を細腕で拭いながら、その何かを見ようと体を起こし、振りかえった。振りかえってみると、既に溶けきり、泡を吹かしていたカップアイスが、海辺に佇む氷岩のごとく、元の白濁の塊となっていた。そればかりではなく、そのアイスの内から、湯水が溢れるがごとく、内から互いに押し合うようにアイスが吹きこぼれ出している。ぶくぶくと膨れ続けるアイスを見ながら、悟り、疲れ切った心身はその疲れなど微塵も感じさせないほどに、飛び上がり、私は、喉が裂けそうなほどの、歓喜に燃えた声を上げた。  「見ろ、私の祈りが通じたのだ。アイス神はいらっしゃるのだ。嗚呼、ありがたき幸せ。わたくしめのような祈りにさえ御耳を貸してくださる。何て慈悲深い御方なのだろう。こんな嬉しいことはあるまい」  私は、疲れた体に鞭打ち、喜色を孕んだ声で「フエタ」を謳いながら、カップアイスの周りで舞踏会の踊りを踊り続けた。六畳一間のむさくるしい一室で吠えたぎる私のそれは、まさに獣が吠えるかのような様であった。
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