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「先生、今日は早く終われそうなんですけど、夕飯何が食べたいですか?」
「何でもいい」
「何でもって、ひとつくらいはあるでしょ?」
「言っても同じのは出てこねぇだろ」
「そ、そんなことは……」
「ムリはすんな、喰えりゃあいい」
「な、なんか、それはそれで悔しいじゃないですかっ」
「悔しかったらどうにか巧くなれ」
「それには時間がかかるっていうか、なんていうか……」
「だからお前が作れるモンでいいって言ってるだろ」
「でも一応リクエスト……」
「あー、うるせぇっ
仕事中にくだらねぇ電話かけてくんな。
切るぞ」
「あ、せんせ──」
ブチッと切られたピッチ。
もうちょっと優しく言ってくれてもいいんじゃないかと思う。
不味くても美味いよ、とかさ。
あ、矛盾してるか……。
でんさんの美味しい料理に慣れた小笠原の舌に、あたしの料理が評価されるはずがないのは承知の上。
でも、愛情はたっぷりなのよ。
そこんとこ、わかってる?
いやわかってないな、きっと。
うぅぅ、やっぱり悔しい。
「崇のバカッ」
医療相談室に誰もいないのをいいことに、思いきり罵倒してやる。
けれど。
自分の実力が分かっているだけに空しい。
はぁーと大きなため息を吐いてパソコンに向かっていると、多田室長が会議から戻ってきた。
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