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「なんだ、下川ひとりか?」
「はい、お疲れ様です」
会議や出張だらけの室長と顔を会わせるのは久しぶり。
室長も忙しい人だよなぁ、と顔を見て思う。
この人はこの人で奥さんを寂しがらせてる男の一人か、なんて勝手に感傷。
「そろそろ帰れよ」
「はい。今日はもう終わりなので帰ります」
「そりゃあ、よかった。そういや下川って最近残業しなくなったよなぁ。
お肌のツヤもいいし、なんかあったの?」
……分かりきったことを……。
病院内の情報を網羅してる室長があたしたちのことを察知してないわけがない。
小笠原の友人で以前わかりやすい相談もしちゃってるし。
でもあえて遠まわしに探らず、直接聞きにくるところが室長だ。
「残業は極力しないようにしてるんです。
作業能力が問われますから」
「うわっ、優等生な答え。
──で、本音は?」
ニヤリと聞き返す室長のその顔は、なんだか詩織と似ていて。
きっとウソは見抜かれる。
「……プライベートも大事にしようかなぁ、と」
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