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室長が嬉しそうに片眉を上げた。
「そうか、うまくいってんのか?」
「……はい。まぁ、そんなところです」
──って、どんなところだっての。
「いい傾向だな」
「はぁ……」
照れからかどうしても滑舌が悪くなる。
でも室長の話し方は変わらない。
からかうわけでもなく、淡々と話を進める。
その話し方は素直になり切れないあたしには、もっとも話しやすいタイプで。
「それなら早く帰れ。首を長くして待ってるんじゃないのか?」
「いえ、向こうはまだ仕事中みたいで……」
「仕事? 崇はまだ仕事やってんのか」
「そうみたいです」
室長の口から小笠原の名前がはっきり出たことで、顔に熱が集中する。
こんな時、どんな顔すればいいんだろ。
「相変わらずだなぁ。どっちが大事だって言ってやりゃあいいのに」
この言葉に、あたしは大きく首を振る。
「大丈夫です。あたし、信じてますから」
そう答えると室長が一瞬だけ真面目な顔になる。でもすぐにその顔もクシャリと破顔。
「吹っ切れたのか?」
「おかげさまで」
それが答えで。
それが全て。
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