最終章

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可愛いんだから、と思ったのは一瞬だけ。 リビングを通り抜けベランダへ逃げた小笠原の背中を追いかけていて、その様子が変だと気が付いた。 どうしたんだろう……。 今日は月も出ていない。 外の空気は冷たくて、夜はすっかり冬の気配で。 ブルッと鳥肌が立った。 「先生?」 その背中に頬を寄せピタリと抱きついた。じんわりと体温を感じてほっとする。 「怒った?」 もう一本タバコを取り出した小笠原は火を点けながら首を振った。 でも黙ったままで相手にしてくれない。 途端に不安になる。 「あたし、何か変なこと……」 「そうじゃない」 そうじゃないんだ、とお腹に回していたあたしの手をポンポンと擦った。 じやあ、何? 何が気に入らないんだろう。 「……怖いんだよ」 「怖いって、何が?」
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