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全身の血が逆流したような。
そんな熱があたしの身体を駆け巡る。
「周りの人間は良いことだっていうけど、俺にはよくわからん。
自分で自分をコントロールできなくなるってのは正直怖いよ」
渇いた風が髪を撫でる。
あたしは目を伏せて深呼吸。
「だから黙って何処かに行くな。ジェットで行かれると見失う」
はい、と答えたいけれど。
声を発したら嗚咽が漏れそうでコクンとだけ頷いた。
「お前がいなくなるなんてこと考えたこともなかった。
でもフェンスから落ちそうになったあの時から、どこかで怯えてるんだ。
お前が俺の手の届かないところへ行ったらって。可笑しいだろ」
微かに笑う小笠原をあたしは笑えない。
あの時、どれだけこの人に心配をかけたのか、痛いくらいに思い知ったから。
「……何処にも、行きません……」
やっと出した声はもうすっかり涙声で、隠しようがない。
「泣くな。怒ってるわけじゃない」
「ご、めん…なさ……」
「だから泣くなって」
くるりと向かされて顎を掴まれて。
見上げた小笠原は優しい顔で笑ってる。
「俺の優先順位が狂うだろ」
そう言って。
触れるだけの口づけをくれた。
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