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『お前に泣かれるのが一番困る』
そう言った小笠原は。
あの日、優しく優しくあたしを抱いた。
始めての時とは別人のよう。
まるで壊れ物に触れるように、真綿を抱えるようにあたしを抱いた。
今までだって、そりゃあとっても優しかったけれど。
こんなに慈しみ大事にされていると感じたことはなかった。
あたしはもう、それだけで幸せの絶頂で。
好きな人と想いが通じて抱かれることの本当の喜びを、小笠原から与えられて芯から震えた。
だから。
困らせるとわかっていながら涙が溢れ出るのを止められなかった。
もっと、もっと、一緒にいたい。
もっと、もっと、一緒に溶けて混ざりたい。
あたしと小笠原の年齢の距離がもちろん縮まることはないけれど。
でも。
同じものを見て悲しくなったり、同じことで笑いあったり。
そんな日常を増やしたいと思った。
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