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どうやらキャスティンは男の名など興味なさそうなので、ここで簡単に紹介しておこう。
声と同じく軽薄さに彩られた表情のこの男。
名をクロイツ・ミュケナイと言う。
年齢からいえば、キャスティンのふたつ上にあたるが、あまりに緊張感がなさすぎて、とてもそうは見えない。
だがキャスティンは、クロイツのチャラい外見に騙されていなかった。
この魔物の蔓延(はびこ)る世界で生き延びていくためのもうひとつの顔の片鱗に気付いていた。
「……なぜ避けようともしないのです?
それになぜ……笑いながら実力を隠しているのですか?」
今の抜き打ち。
常人であれば首筋に冷たい刃が当たるまで気付かない。
並の戦士であれば、防御は間に合わぬと覚り、かわそうと動く。
しかしクロイツは、キャスティンの動きを確実に目で追えていながら、何もしなかった。
いや、キャスティンを越える速さで『お手上げ』のポーズをとるだけの余裕はあったようではある……。
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