【怖話】短編集

覗き穴

引っ越したばかりの友達は古いアパートだけど住み心地が良いと自慢していました。
その上家賃が安い事を何より喜んでいるようでした。

「押入れの中に小さな穴があって隣の部屋が見えるんだよ」

一週間経ってから友達が言いました。

「普段穴の事は気にしないんだけど、隣から赤ん坊の泣き声が聞こえてきてさ。誰もあやす様子がないからつい気になって覗いてみたんだよ」

友達が覗くとそこには向かい合うように仏壇が置いてあって、その手前に泣きじゃくる赤ん坊がいたそうです。

そして、隅の方でヒソヒソと話す男女の声が…。

男女の姿は穴から死角になっていてよく見えなかったそうですが、友達は泣いている赤ん坊をほったらかしにしている男女に腹を立てました。

「何やってんだよ！！
赤ん坊が泣いてるだろッ！！！」

思わずそう怒鳴ってしまったそうです。

すると、ヒソヒソ話と赤ん坊の泣き声がピタリと止み、不気味な沈黙が部屋を包みました。

そして、布が擦れるような音が部屋の中を行ったり来たりするようになり、音が穴のすぐ近くで止まると友達は言い様の無い不安に襲われました。

すぐその場を離れた方が良いのは分かっていたみたいですが、何故か穴から視線を反らす事が出来なかったそうです。