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少女はその小さな体を震わせ、しゃがみ込んでいた。
体全体が恐怖に包まれているかのように、その姿はとても小さく見える。どこか遠いところを見ているような瞳にはただ、恐怖の色だけが映し出されていた。
「どう……したの?」
努めて優しく出した声にも、少女は肩をびくりとさせて、体を固くした。
ただでさえ人通りの少ない地下道は、夜ということもあって、周囲には一つとして人の姿はない。
それがゆえに、今ここに存在する音と言えば、彼女と僕の、小さな呼吸音だけだった。
そこは、とても静かな、とても苦しい、空間。
「…………」
僕は彼女のしゃがんでいる目の前に歩み寄って、自分も同じようにしゃがみこみ、聞いた。
「行くところは、ある……?」
今度はびくつかず、それでも恐る恐るという感じで、僕と目をあわせる少女。言葉はきちんと聞きとれたのだろう、目線の高さを合わせた僕に向かって、小さく、首を横に振る。
目の高さを合わせたことによって、ようやく僕は、彼女の姿すべてを見ることができた。
一ヶ月くらいろくな食べ物を口に入れてないのだろう痩せ細った身体と、その身体にかろうじて引っ掛かているような、布きれと言ったほうがよさそうな服、その上にのった小さな顔。
そして最も目を引くのは、首にもかからないくらい短な、白い髪だった。
「帰るところは、ある……?」
先ほどと同じように、彼女は首を横に振る。
僕は少し迷い、でもすぐに、それじゃあ、と言葉をつづけた。
「うちに来て、いいよ」
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